巷では「相続大増税時代」などということをよく聞くようになりました。
特に基礎控除の引き下げについては、その影響が強く、我々顧問先のオーナー社長に
とっては最大の関心事といっても過言ではなく、この頃「相続税の試算をして欲しい」と
いう依頼を受けることが以前と比べて多くなったように感じられます。
その中でも、自社の株式の評価額が「これ(自社株)さえなければ相続税もそれほど
かからないのに」といったケースも多く見受けられます。
そこでオーナー社長が保有している自社の株式を生前に相続人たる後継者に贈与
もしくは譲渡するといったいわゆる事業承継(具体的には株式の承継)が行われます。
一般的に考えられる株式の承継対策としては、次のような方法が考えられます。
(1)株式を贈与し、暦年課税方式により贈与税の申告をする。
(2)株式を贈与し、相続時精算課税方式により贈与税の申告をする。
(3)株式を贈与し、贈与税(相続税)の納税猶予制度の適用を受ける。
(4)後継者が出資する資産管理会社(もしくは後継者個人)に株式を譲渡する。
(1)の方法については、最もポピュラーで古典的な方法かも知れませんが、
長い年月をかけ、贈与税の基礎控除110万円前後の範囲内で毎年贈与を繰り返すことで
効果を発揮しますが、以前(26年6月15日号)もブログに書いた様に遺留分の減殺請求等
に十分注意する必要があります。
また、株主たるオーナー社長がそれなりに高齢の場合、思ったほどの効果はなく、
その時は、相続税の税率と比較しながらある程度の贈与税の税負担を覚悟で
大胆に贈与していく必要もあります。
(2)の方法については、贈与時には株価が2500万円までは贈与税がかからず、
それ以上の場合は、2500万円を差し引いた金額に20%の贈与税がかかり、
その後相続発生時に贈与時の株価で相続税を改めて精算する方式です。
未来を予測することは困難ですが、贈与後会社の業績が著しく上昇した場合は、
結果的に相続時精算課税制度を選択して良かったということになりますし、
逆の場合も当然考えられます。
(3)の方法については、一定の要件を満たせば、発行済み株式の3分の2を限度
として贈与税の納税が猶予(その時点では、納税額ゼロということになります)
されるというものですが、申告後5年以内に一定の要件を満たさないこととなった場合、
当初払うべき贈与税の他延滞税等もかかってしまいます。
M&Aで会社を売却したり、不況で従業員をリストラする場合は、この納税猶予の
一定の要件のシバリの為にそれらを断念するという事態も考えられます。
(4)の方法については、上記3つの方法とは毛色が全く異なる方法で、後継者たる
相続人が資産管理会社を設立し、金融機関からの借入でオーナー社長所有の自社
株式を買い取り、オーナー社長は株式譲渡所得の20%の所得税住民税を支払い、
オーナー社長に利益が還元され後継者への株式の承継も完了しますが、
上記3つと異なり譲渡所得で得た利益は、何もしなければ当然相続財産となり、
多額の相続税を支払うことにもなりかねません。
したがって、株式譲渡により事業承継は完了したかもしれませんが、生前相続対策
としては「道半ば」ということになります。
金融機関は、この方法が大好きで融資金額も多額となりますし、会社に事業承継
対策として勧めてくる場合、十中八九このスキームのような気がします。
生前の株式承継対策としては以上のような方法が主に考えられますが、
必ずしもどの方法が良くてどの方法はダメだということはなく、どの方法にも
一長一短があり、要は会社の内情によって最も適した方法をチョイスしていくことが
大切なのではないでしょうか。
(場合によっては、納税額が多くなる方法を選択するケースだってあるかと思います)
今のうちに煩わしい「事業承継対策」について、ある程度のしっかりとした道筋をたてて、
後は本業に専念したいものです。
埼玉本部 菅 琢嗣
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